壺算
本日は古典落語の世界にご案内します
今回は、長いです
登場人物は3人
瓶を買う亭主、買い物上手の兄貴分の源さん、瀬戸物屋
あえて、誰が何を発言したか注釈を入れません
寄席にいる感覚で、場面を想像しながらどうぞ!
古典なので、だいたいの噺の筋は同じですが
ところどころ味付けしてます
兄貴~兄貴~ うちの水瓶が寝しょんべんして困ってるんです
なんだいなんだい、朝っぱらから騒々しい
寝しょんべんって、いったい何だい? 水が漏れてんのか?
そうなんですよ~ でねぇ、うちのかかあが新しいの買ってこいって だけどね、おまえさんは黙っていれば賢くみえるんだけど、変なもの買わされるんじゃね~かって だから、源さんを連れていきなさいって!
源さんだったら、人間がずる賢くできてるから、店のひとも騙くらかしてくれるよって
そんな訳で署までご同行願います さあ来なさい
おいおい、おまえは岡っ引きかい
そんでさー、なんだい?本人のまえでよくもまぁー堂々と悪口が言えたもんだな~
あ~そうだった かかあも本人の前では言うなって言ってたんだった~
まあいい 奥から棒と荒縄持ってきな~~
え~何に使うんすかぁ~
瓶をしばって持ってくるために決まってるだろ、いいから早くしな
そんなの店でやるでしょうよ
いいから黙って持ってこいって~
店がいっぱいありすぎて、どこに入っていいかわかんないな~ どこにします?
ここがいいや イイ店構えしてるじゃないか~
お~~い 店主はいるかい、店主は
いらっしゃいまし よくおいでくださいました
瓶あるかい、瓶~
おいおい、何ぼ~っと突っ立ってるんだい 早く入ってこいよ
よぅ あるじ こいつがねぇ~ 瓶が壊れたってんで買い物しようとしていたんだが、ひとりじゃ不安だからってんで、おれがついてきたわけよ~
それはそれは、手前どもの店によくおいでくださいました。 いい品を取り揃えてございますので、見ていってくださいまし
手前側が1荷の瓶、奥が倍入る2荷の瓶でございます
それでいくらなんだい??
いい品ですから本来は高いんですけど、う~んと勉強させてもらいまして、1荷が3円50銭でございます
で、奥の瓶は倍入りますので、3円の倍の7円でやらせてもらってます いかがでしょう?
3円50銭かい?
でさぁ、仮に、仮にだよ、俺らがいつもくるお得意さんだったらいくらになるんだい? よ?
しゃ~~んえん、ごじゅっしぇ~~ん
世界のナベアツみたいに言ったって、おんなじじゃね~か!
よ~く考えておくれ! 俺らはこんなにたくさん店が並んでるなか、わざわざこの店を見つけて、こうして雁首そろえてんじゃね~か おい、外見てみろ
手ぶらじゃ~ね~んだよ、棒と荒縄まで持ってきてだよ、店のやっかいにやらないで持ってかえっちまおうって、そんな気合いの入った客だよ
どうだい? 勉強できるか、勉強~ きあいだぁ~きあいだぁ~ おい! おい!
わ、わかりましたよ お客様方の気合い、じゅうぶんに伝わりましたよ~
でしたらどうでしょう? まずお客様のご希望を聞かしていただきまして、手前どもが合わせられるかどうか いかがでしょう?
わかった じゃー言うよ
俺さ~ このじゅ~って音なんだがね~ 聞くとトラウマになっちまうのよ~ ちいさいとき、火鉢の周りで遊んでてなぁ~ 手が当たっちゃってさぁ~ じゅ~~ってやけどしたわけよ
あれ以来、どうも、じゅ~~ってのは、勘弁してもらいたいね~
っで、あるじよ このごじゅ~~ってのをとっぱらってくれるとありがたいんだがね~
お、おきゃくさまぁ~ すごいかたですね~、幼少期まで持ち出して交渉してくるとは~ 50銭は……
いゃ~おきゃくさま~ この3円50銭でもギリギリでやらしてもらってるんですよね~ それを3円~ しゃ~~んえ~~ん すぅ~~~
あにき~ あにき~
あるじが気絶しちゃいましたよ~
これはあるあるさんところの探検隊呼ばな~アカン
おいおい、ふざけてるんじゃないよ~ おまえは引っ込んでなさい!
あるじ あるじ よぉ~ いいかい? こんなにたくさんの店から選ばれてんだよ~ わかるかい? あんたはただもんじゃないんだよー
やればできるよ、できるよ、できるよ~~ おい!おい!
わ、わ、わかりましたよ
あなたには負けましたよ~ 入って来たときから嫌な気配を感じてたんですけど~
しゅ~~~~ (酸素スプレーを吸い込む)
ハ~ハ~ え~と 商人には魔日というものがありましてね~ 月に何日かあるわけでございまして~
今日はその日だと思わせていただきまして、こ、これを3円で、持ってっていただきましょう
さすが、あるじ よっ、千両役者!!
じゃ~ここに3円置くよ~~
じゃ~な ほらっ、突っ立ってねぇ~で、縛るの手伝えって
よ~しっ 行くぞいくぞ~~ 何、ムニャムニャ言ってんだよ 早く行んだよ~
あっ あにき~ あっしの話、聞いてましたかい? 欲しいのは、1荷の瓶ですよ~
わかってるよ~ これがなぁ~ 1周まわると2荷に変わるんだよ~~ おっ、そこを左 次を左、次を左
あっ あにき~ 店に戻っちまいましたぜ~
これでいいんだよ、いいから、そこで黙って待ってろって
よっ あるじ あるじはいるか~い?
これはこれはおきゃくさま~ どうなさいました? お忘れ物か何かで?
あるじよ、驚いたね~ 俺たちの顔覚えててくれたんだ~
なにをおっしゃいますぅ さっき、いらっしゃったばかりじゃございませんか~
うれしいね~ っで、あるじさぁ~ よわっちゃったよ~ あそこに突っ立ってる、あいつ
薄々気づいていると思うんだが ばっ バカなんだよ~ あいつの買い物だったんだけどね、買ったあとで、欲しかったのは1荷じゃなくて、2荷だったんだって、言い出しやがって!
そんでさ~ さっき買った1荷の瓶をさぁ~ 申し訳ないんだけど、引き取ってくれねぇ~かぁ?
なぁ~に 一度買っちまったんだぁ 3円とはいわないから いくらでもいいから引き取ってくれねぇ~かぁ? いくらでもいいから、頼むよ~~
なにをおっしゃってんです! 他の店でお買いになったものなら、まだしも、手前どもの店でさっきお買いになったばがり 紐もほどいてないものじゃないですか~
ですから! 3円で引き取らせていただきます!
お~ あるじ~ 話がわかるひとで良かった~ エラいエラい! ほぉ~れ、たかいたか~い
おきゃくさま~ おやめください! おろしてくださいよ~
わりぃ~わりぃ~
じゃっ 3円で引き取ってくれるんだな? 3円で?
へぃ、3円で引き取らせていただきます
お~ あるじ~ あるじよぉ~
よっ いいぞっ! おっ 大統領~!
お~ぎゃ~ぐぅ~ざぁ~まぁ~ グ~ルゥ~ジィ~
おっと ごめんよ ところで、あるじ~ あるじよ~
さっきからなんですか~?? ここは劇団四季じゃないんですから~ っで、何です?
おぅ! 本題を忘れてた! ところで、あるじよ~
こいつが欲しいのは2荷の瓶なんだ! おいくらかぃ?
さっきも申し上げましたとおり、7円でございます!
さっきは3円で売ってくれたんだったよな~?
え~ ですから、1荷の瓶を3円でお売りしましたから、2荷の瓶はその倍で………(;゚д゚)
おきゃくさま~? お会いしたときからただ者ではないかとは思っておりましたが……
1円のひらきがでましたよ~
棒と荒縄までは見事でございましたが、世の中にはできることと、できないことがございまして~
あるじよ~ せっかくの出会いじゃ~ないか~ なぁ~に これだけたくさんある店でわざわざこの店に入ったんじゃ~ないか~
俺たちだって、1円まけてくれたんだから、黙って帰ったりはしないよ! 街じゅ~に屋号を言ってまわってやるよ~ 仕事やすんでやってもいいんだよ~
損して得とれじゃないか~ 宣伝料だと思えば安いもんじゃね~かぁ~ なっ なっ
なっ涙で目が見えない(泣)
わっわっわかりました~
商人には魔日というものがありまして~ そのなかでも取り分け悪いのは大魔日と申しまして~~ くぅ~~
2荷の瓶を3円かける2倍で、6円!
も~いいから持ってっちまってくだせぇ~
いいのかい? あるじ~ ここまでしてもらっちまって…
じゃ~~さっき渡した3円あるかい?
もちろんありますとも~ ほら、まだこちらに
っで、1荷の瓶を3円で引き取ってもらえるんだよな?
へぃ、そうさせてもらいます
ってことは、ここにある3円と1荷の瓶を引き取ってもらった3円をあわせて6円! これで2荷の瓶持ってっていいなぁ~?
ん?え~~と、こちらの3円と瓶を引き取った3円で6円!? う~~ん、確かに6円! 6円? 6円! うんうん……さぁ~お持ちください
おっ ありがとよ! ほれ、行くぞっ! すこ~~し急げよ~
あにき~ あにき~ クックっクっ
おいおい笑ってんじゃないよ~
1荷の瓶が2荷になったね すげ~や、あにきの言ったとおりだ~~
おきゃくさま~ おきゃくさま~ ちょっと、お戻りくださいまし 申し訳ありませんが ちょっと、お戻りください~ お~~きゃ~~く~~さ~~ま~~
あにき~ すごい顔で走ってきたよ~ どうする? 走る?
どうするっつったって、こっちはカゴだ 逃げ切れるわけないだろ~ もどれもどれ~
あいスミマセン 勘定があいません、勘定が!
わたくし、商人を長いことやってきたんですけど~ どうも、いい商売したな~~ っていう感覚が…… まったく無いんですぅ~
おいおい、さっきは持って行けって言ったのはあるじじゃ~~ないのか? ど~~なってるんだ?
いいか~? そろばん持ってこ~い そろばんを~
いいか~? ここに3円あるな? 3円
いれてみろ、3円 ほれっいれてみろ
え~~と、3円っとぉ これはすんなり入るんでございます
それで おめぇ~さん 1荷の瓶をいくらで引き取ってくれたんだい? いくらで?
それは~~~ 3円でございますぅ~
だったら、3円を足してみろ 3円を
う~~ん? ここがいつもひっかかるんですけど~~~(;¬_¬)
ガタガタ言ってねぇ~で 3円足してみろって 3円を
う~~ん? え~~と、3円を足すと……6円! あ~~ 6円? 6円になりまし……た?
そうだろ~~? 3円と3円で6円だぁ~
それで気が済んだかぁ? じゃ~行くぞぇ
こばしりでいけぇ~ こばしり~ いけいけぇ~~
おいおいおい、腹をかかえて笑うんじゃないよぉ~
ハッハッハ~~ はらいてぇ~~
お~きゃ~~ぐぅ~~ざぁ~~まぁ~~
ひゃっひゃっひゃ
あにき~~ あるじ壊れちゃってますよ~ どうしますぅ~~?
おぅっおぅっおぅ~ 戻るぞ戻るぞ~
なんだなんだ、何度も何度も しまいにはおこるぞ~~! いったいなんなんだぁ~ さっきもやっただろ~ なんべんもなんべんも~
あと一度しかやらないよ、一度しか お~~い そろばん持ってこ~い
ですから、なっなっなぜか 勘定が合わないんでぇ~すぅ~よぉ~
いいか~~? こ~こ~に~ 3円がありま~す はい、3円入れて!
はい、はい ここまでは間違えなく、はい
あるじは1荷の瓶を3円で引き取ってくれたんだよなぁ~~ だから、3円を足すと??
う~~~ん?? ここなんですよ~~ ここが! わたくしはいれたいんですけど…… この指が入れさせたがらないんですよ~~ こらっ 入れ~
なにをしてるんだい?
う~~~ん(;へ:) た~~すけてぇ~~ あっ おっきいそろばんなら入るのかな~? おっきいそろばんを持ってこ~~い は~や~ぐぃ~~
だ~か~ら~! 3円と3円を足してみぃ~~?
う~~~~~! えぃ~~い! こうなったら、おまけでぃ~い!
1荷の瓶も持ってっちゃってくだされ~!
おぅ あるじよ~ せっかくだけど、2つもいらないよ~