駄馬の矜持

サラブレッドは悠々と草原を走る

良い餌が与えられ
良い馬具がのせられている

実に優雅なその馬体は
馬油におおわれ、キラキラしている
美しいフォルムは
まるで高級車のようだ


それに引き換え、駄馬はどうだ

畑仕事に追われ、農機具をつけられる
飼い主の残り物の餌を食べている


両者には越えられない隔たりがある
生まれてきた環境が一生を左右する


ひともかつてはそうだった

貴族や武将の家に生まれた子供は
秀吉公のような成り上がりがない限り
一生、親と同じ運命をたどる

士農工商

身分の固定化はやがて
能力の差を生じさせる

いまのような自由社会になったのも
ついつい最近のこと

だから
いまでも家系による能力差は
色濃く残っているような気がする


僕は本能的に感じるのだが
僕の家系は代々
身分が低い農民だったと思う

ちょっとした仕草でも
やはり頭がいいひとは違う

優等生のように振る舞おうとしても
無理があると感じてしまう


ちょっとした仕草でも
やはり品のあるひとは違う

品良く振る舞っているつもりでも
どこか無理がある

僕は高校生くらいには
すでにこの現実に気づいていた

上を見ればキリがない
下を見ればあとがない 、と


だからこそ
今の時代を生き抜くために
どちらかというと
落ちないための策をやってきた

臆病なほど、慎重に確実に


村一番だったといわれた我が家が
普通の生活を送れるようになったのは
ひとえに、祖父の血のにじむ努力があったからだ

電気も消えている夜遅く
ロウソクの火で勉強していたと
蚊取り線香がついている
夏の夜の祖父の家に遊びに行ったとき
聞かされた思い出がある


昔の日本人は偉大だった
死して数十年経つのに
いまだに我が家を支えてくれている


今こそ、前に出よう

我が家にはサラブレッドたちには無い
チカラ強さがあるのだから


長年のビハインドを跳ね返すときが来た

恐れず前に出てみよう

駄馬には駄馬の矜持があるのだから