時空を超えたメッセージ

今からちょうど10年前

就職が決まったとき

剣道の師匠から
座右の銘をいただいた

その当時

師匠は引退していたが
とても親しくなったので
よく遊びに行かせてもらっていた

剣道の話もするのだが
専ら、将棋の対局をしていたのだ


戦前生まれの師匠

戦後からの復興に尽力した世代

某自動車メーカーの第一線で
疾風怒涛に駆け抜けられた世代

とても言葉に深みがあり
一言一言がよく考えれていた

小さい頃から
師匠の座学の時間が楽しみだった


4月に就職を控えたある日

将棋の駒を持ちながら
師匠にお願いをした

先生、座右の銘をいただけませんか

師匠も駒を持ちながら
間をおいて、こう言った

少し時間をもらえないか

1週間くらい経っただろうか
師匠からお呼びがかかった


小さなメモ帳に
絶妙の間隔で並んでいる
5つの文字

大きく書かれた、人
丸みを帯びた、心
寝かせられた、腹
縦に長く伸ばした、気
とても小さい、己

エジプトの象形文字のような
アーティスティックなデザイン

四文字熟語とか
単文とかを想像していたので
一瞬、意表を突かれたが

多くを語らない師匠らしい
粋なコトバだった


あれから10年

春風に乗って
伊豆の海岸線を
気持ち良くドライブしていたとき

大きなダルマが目に飛び込んできた

土肥達磨寺という寺だった

お参りしようと
入館チケットを受けとったとき
脳内にビビっ電流が走った

あっ! あのときの文字だ!

ココロのなかにあったコトバが
目から飛び込んでシンクロする


時空を超えて
過去と現在の自分が
同じコトバに向かい合う


歳を重ねた分
師匠が込めたメッセージに
つながる扉が増えたような気がする


今はもう直接聞くことができない

だが
人生の節目に埋め込まれたメッセージは
未来へと繋がる架け橋となる


師匠のしたり顔が蘇った
青く澄んだ春の空