絵空事

『皆空』

 

世の中には

スローガンばかりを叫び続け

時に本質を見失うことがある

 

日本人は昔から

スローガンを作るのが好きな傾向がある

 

戦中は一億総決起

 

圧倒的な劣戦にあっても

すべての国民が炎のごとく

決起すれば必ず勝利できる

 

僕らは

当時の状況を知るよしもないが

 

多くの国民は

厳しい状況とは理解しつつも

スローガンによって吹いた風には逆らえず

非国民と罵られることを恐れ

 

未来ある青年たちを

 

万歳しながら

涙を隠しながら

 

送り出していたのだろう

 

散っていった彼らが残した手紙は

現代に生きる私達に

生きる価値を教えてくれている

 

格好つけた台詞ではない

飾りをつけない贈る言葉

 

心から語られる言葉は

悲しみのなかにも

趣があり

爽やかで

人間性が表れている

 

それから時が流れても

やはり

スローガンにあふれている

 

一億総活躍

 

すべての国民が活躍できる

明るい未来が待っているのか

 

どうやって実現しようとしているのか

 

政府はあいかわらず

ワンポイントセンテンスで

国民を煽ろうとしている

 

私達は常に

世間体を気にかけている

 

これだけ情報にあふれ

多様な考え方がある現代でも

 

やはり

 

横並びというか

皆と同じように生きなければ

幸せになれないという

風潮が強いように思える

 

確たる例は

人生の三大支出のひとつに数えられる

マンションなどの住宅購入だ

 

人口が減り

空き家がこれだけ増えているのに

分譲マンションがどんどん建つ

 

かつてはリゾートマンションだった

越後湯沢の物件がタダ同然で売られているのに

 

 

丸の内界隈を歩いていると

新人ぽい人が

 

名刺交換させてください

とか 

話だけでも聞いてください

とか

 

必死の形相で声をかけている

 

少し離れたところに

先輩社員らしき人影が……

 

彼らも大変だなぁ

 

いつもそう思いながら

右から左へ受け流していた

 

左から右へは受け流せないので

ちょっとだけ聞いてみたことがある

 

 セールスマンのお馴染みのセリフ

 

賃貸だと後に残りませんから

 

払いきれば

それから先はプラスになりますから

 

 いまは金利が低いですから

 

それに納得して購入するひとが

いまだに多い

 

即売なんて物件もあると聞く

 

はやり

昭和の高度成長期の感覚が

世代を超えても残っている

 

家、マンション買うのは当たり前

 

皆もそうしているから

同じようにしないといけない

 

思い描く世界は昔と変わらないが

描いているキャンパスが変わっている

 

いまだに

それさえ気づいていない

 

今日もまた

ピカピカのタワーマンションから

駅への行進が繰り広げられる

 

家族のため

会社のため

ローン会社に金利を払い続けるため

 

長い長い行進が始まる

 

これも昔から言われているが

「改革」というスローガンも好まれる

 

いつの世も

変化が求められている

 

 

働き方改革

ワークライフバランス

プレミアムフライデー

 

残業減らせ

早く帰れの大合唱

 

自分たちが晒しものになりなくないから

 

騒がれてからしばらくたった今

この時間になっても

会社帰りらしき人が電車の中を埋めつくす

 

赤ら顔でなく、難しい顔をしながら

 

ひと昔前だったら

酔っ払いで埋め尽くされていたのに

 

 

スクラップアンドビルド

 

真の改革をするならば

古いものを壊してしまわなければならない

 

絵空事のような古い考えを

いっそのこと

無かったことにしてしまおう

 

そもそも

すべてはみな

空なのだから